2012年06月24日

はじめに【脳の中の痛み@】

中枢伝達経路(二次、三次侵害受容ニューロン)【痛みの経路C】で説明したように、痛み刺激は、最終的に大脳に伝わります。Aδ線維を伝わってくる一次痛は、外側系を通り大脳の体性感覚野に、C線維を伝わってくる二次痛は、内側系を通り大脳の島皮質前帯状回扁桃体海馬前頭前野に伝わります。このように、大脳に伝わった痛み刺激は、どのようにして『痛み』として感じられるのでしょうか?


ゲートコントロールセオリー『gate control theory』と『広汎性侵害抑制調節』【痛みの抑制@】参照)を提唱したMelzackは、幻肢の脳内機構からヒントを得て、『ニューロマトリックス理論』というものを提唱しました(『マトリックス』は、「生み出すもの」という意味)。これは、慢性痛病態による分類【痛みの分類@】参照)が生じている者は、脳の中の機能に変化をきたしているという説です。Melzackは、『痛み』を生み出すものとして、知覚情動認知中枢伝達経路(二次、三次侵害受容ニューロン)【痛みの経路C】参照)の3つの側面に分類しています。


幻肢とは、腕や脚が切断されているにもかかわらず、それがまだ実際に存在しているように感じる現象のことです。これは、脳の中にある腕や脚を感じる領域が、それらが切断されても残っているために生じると考えられています。


一方、慢性痛においても、身体に『痛み』に関連する所見がないにもかかわらず、『痛み』を感じていることから、『痛み』は、脳内における神経現象により作り出されていると考えられ始めてきました。


そして、ここ20年の脳の活動を調べる技術(脳機能イメージング法)の開発、発展に伴い、ヒトの思考や行動時の脳活動を計測することが可能になり、身体の『痛み』や、心の『痛み』が生じる際の脳活動を記録することも可能になりました。そして、『痛み』に関連する脳の機能が分かり始めてきました。


『痛み』が生じる際に、脳の中のどの領域が活動するかが分かり、そして、その領域が活動する条件、活動しない条件が分かれば、慢性痛への対処法も明らかになってくると思われます。


では次回から、痛み刺激がどのようにして『痛み』として感じられるか、脳の中の『痛み』を感じる領域がどのような条件で活動するかなどを、脳機能イメージング法による研究成果をもとにみていきましょう。(^^)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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2012年06月28日

急性痛の知覚【脳の中の痛みA】

今回は、急性痛における、『痛み』の知覚についてです。これは、一次痛一次侵害受容ニューロン【痛みの経路A】参照)によってもたらされます。


一次痛は、大脳の体性感覚野に伝わりますが、より正確に説明すると、痛み刺激を受けたところと反対側の大脳の一次体性感覚野に伝わります(例えば、刺激を左手で受けたら、右側の大脳の一次体性感覚野に伝わる)。その後、両側の二次体性感覚野に伝わります。この経路は、『痛み』の知覚経路として考えられています。


一次体性感覚野は、伝わってきた刺激が、どこで受けた刺激なのか判別します。一次体性感覚野の特徴としては、痛み刺激の強度に比例して活動が増加することが挙げられます。


この一次体性感覚野は、注意機能(刺激に注意を払うかどうか)の影響を大いに受けます。つまり、刺激に対して注意を払わなければ、感覚受容器で受けた刺激が知覚されないこともあったり、逆に注意を払えば、その知覚が増強したりすることもありえます。また、自ら触ることによってその物が何であるかを識別することにも、関与しています。物体と接触する場面を想像しただけで『痛み』が生じることがありますが、これはこうした一次体性感覚野の機能の影響が大きいと考えられています。


二次体性感覚野は、刺激の性質を識別するところと考えられています。これは、二次体性感覚野に病変がある患者では、痛み刺激を『痛み』の刺激だと判別できないことから、このように考えられています。


また、二次体性感覚野の活動は、予期注意学習記憶といった機能や認知的プロセスに、大いに影響を受けることが明らかになっています。このように、二次体性感覚野は、『痛み』の感受性の変化に関連する領域と考えられています。


以上のように、『痛み』の知覚は、主に一次痛が、一次体性感覚野二次体性感覚野に伝わることによって生じます。一次体性感覚野は、刺激を受けた場所を判別し、痛み刺激の強度に比例して活動が増加し、注意機能の影響を大きく受けます。二次体性感覚野は、刺激の性質を識別し、予期注意学習記憶といった機能や認知的プロセスに、大きく影響を受けます。


そして、一次体性感覚二次体性感覚野は、侵害刺激に応答する急性痛に主に関与し、慢性痛にはあまり関与しないと考えられています。


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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