2012年08月01日

痛みの悪循環A【痛みと組織損傷E】

前回、「組織損傷によって『痛み』が発生している場合は、筋肉が収縮し続けたり、筋肉が収縮しやすくなります。」と述べました。実は、この筋肉の収縮が、『痛み』の悪循環の入り口なのです。(>_<)



『痛み』により筋肉が持続的に収縮すると、その部分は血管が圧迫され、血流減少による酸素欠乏栄養障害となり、さらに乳酸の蓄積も生じ、アシドーシスとなってしまいます。アシドーシスとは、簡単にいうと、血液が酸性になってしまうことです。


すると、障害部位の細胞から、ブラジキニンをはじめとした発痛物質などが産生され、新たな『痛み』が生じます。


また、交感神経(活動時、ストレス時、緊張時に興奮する自律神経)も同時に興奮すると、血管が収縮し、さらに血流が減少してしまいます。すると、前述の血流減少による障害に拍車をかけることになり、『痛み』の悪循環に陥ってしまいます。(>_<)


さらに、『痛み』があり筋肉が持続的に収縮している状態では、関節を動かすことが困難となるため、この状態は、局所の不活動状態であるといえます。次回以降に詳しく説明しますが、不活動状態では、それ自体が『痛み』を発生させることになります。さらに、拘縮(筋肉、腱、関節包、靱帯などの軟部組織が短縮し、関節が曲がりにくくなること)や筋委縮などの機能障害の発生につながってしまいます。


以上のように、『痛み』は、一度発生すると、悪循環に陥ってしまうことがあります(図1)。したがって、『痛み』が発生したら、できるだけ早く『痛み』を取り除くことが、大切なこととなります。(^^)/


痛みの悪循環.png

図1:痛みの悪循環



つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.

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2012年08月03日

関連痛【痛みと組織損傷F】

組織が損傷して『痛み』が生じる場合、多くはその損傷した部分に『痛み』を感じます。しかし、ときとして、損傷したところとは異なる部分に『痛み』を感じることがあります。このような『痛み』を、関連痛といいます。


関連痛は、内臓や筋肉などの深部組織が損傷された場合に生じることがあります。例えば、狭心症の『痛み』は、胸だけでなく、左腕に感じることが多く、顎や腹部に感じることもあります。胆石症肝臓の疾患では心窩部(みぞおち)や右肩に、膵臓の疾患では左肩に、尿路結石症では腰に『痛み』を感じることがあります。このような関連痛は、内臓や筋肉だけでなく、骨や関節の損傷でも生じることがあります。


なぜこのような関連痛が生じるのでしょうか??これには様々な説がありますが、まだ結論には至っていません。ここではいくつかの説を紹介します。それらの説を紹介する前に、深部組織の損傷は、どこで生じたのか分かりにくいという特徴を説明します。


組織の損傷は主に『痛み』によってどこが損傷しているかを知ることになりますが、深部組織の損傷の場合、『痛み』によってどこが損傷しているか特定しにくいという特徴があります。脳の中には、刺激を受けた場所を特定する部位があります。その部位は、一次体性感覚野であり、そこには“身体地図”が存在します(急性痛の知覚【脳の中の痛みA】参照)。しかし、その“身体地図”は皮膚などの体表面についてのものであり、内臓などの深部組織に関する明確な地図はありません。そのため、内臓などの深部組織が損傷された場合、『痛み』によって損傷したところを特定することは、難しいこととなります。


ここからは、関連痛のメカニズムについての説を紹介します。


@ニューロンの収束投射説

皮膚などの体表面の『痛み』を伝える侵害受容ニューロンとシナプスを形成している次の侵害受容ニューロンが、内臓などの深部組織の『痛み』を伝える侵害受容ニューロンともシナプスを形成している、つまり、体表面と深部組織からのニューロンが、ある特定のニューロンに収束しているために生じるという説(図1)。

収束投射説.jpg
図1:ニューロンの収束投射説



A同一ニューロン説

解剖学的に、一次侵害受容ニューロンは枝分かれし、異なる部位を支配するという特徴があり、同一の一次侵害受容ニューロンが体表面も深部組織も支配しているために生じるという説(図2)。

同一ニューロン説.jpg
図2:同一ニューロン説



以上のように、深部組織が損傷した場合は、損傷したところとは異なるところに『痛み』を感じることがあります。逆に、身体の表面付近にどこも悪いところがないのに『痛み』を感じるときは、もしかしたら深部組織が損傷しているのかもしれません・・・。(>_<)


おわり(^^)


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.

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2012年08月04日

痛覚閾値の変化【痛みと不活動@】

骨折したり靱帯を損傷したりして病院に行くと、患部にギプスを巻かれたり、装具を着けられたりします。これは、損傷した組織の治癒を促進させるために行われるものです。しかし、このような処置は、二次的に、拘縮筋委縮といった障害を引き起こすことも知られています。また、患部の炎症が治まっていき、組織の治癒が進んでいるにもかかわらず、『痛み』だけが残存していることもあります。


このような『痛み』は、「骨折や靱帯損傷といった、組織損傷があったから痛みが出る」「拘縮が発生して筋肉や関節が硬くなっているから痛みが出る」などと、漠然と捉えられていました。しかし、最近の研究で、この『痛み』について解明され始めてきました。最近の研究では、ギプス固定、非荷重、安静臥床などによって引き起こされる不活動状態は、それ自体が『痛み』を生み、しかも慢性痛の発生要因になるとされています。


今回は、不活動によって痛覚閾値が低下したという研究報告をいくつか紹介します。「痛覚閾値が低下する」とは、「『痛み』を感じやすくなった」ということです。


ヒトを対象とした実験として、Butlerは、23名の健康なボランティアの前腕(肘と手首の間の部分)を4週間ギプス固定したところ、52.2%に冷痛覚閾値の低下が、36.1%に熱痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。


また、Terkelsenらは、30名の健康なボランティアの前腕から手関節(手首)を4週間ギプス固定し、親指と人差し指の間の皮膚をつまむ際の圧力値によって痛覚閾値を評価したところ、ギプス固定を解除した直後だけでなく、解除後3日目28日目においても、痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。


動物実験として、Guoらは、ラットの足関節(足首)を中間位(脛と足の裏が直角の状態)で4週間ギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価したところ、ギプス固定解除直後から2週間後まで痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。


また、山本らは、ラットの足関節を最大底屈位(足首を倒した状態)で4週間ギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価しました。この実験では、左右とも足関節を固定した両肢固定群と、片方の足関節だけを固定した片肢固定群を設け、その比較も行われました。その結果、両肢固定群はギプス固定2週間後から、片肢固定群はギプス固定3週間後から痛覚閾値の低下が認められたと報告しています。また、両肢固定群は、片肢固定群よりも全身の活動量が少なかったことから、山本らは、この2群間での痛覚閾値低下が生じ始める時期が異なるのは、このことが影響しているのではないかと論じています。


また、沖田らは、ラットの右足関節を最大底屈位で、膝関節上部から前足部(足の先の方)までギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価しました。この実験では、4週間固定した群、8週間固定した群を設け、それぞれギプス固定を解除してから4週間後の痛覚閾値も評価されました。その結果、ギプス固定2週間後から痛覚閾値の低下が認められ、その後はギプス固定の期間に応じて痛覚閾値の低下が著しくなっていきました。また、ギプス固定を解除した後の4週間では、4週間固定群では痛覚閾値の回復が認められたが、8週間固定群では回復が認められなかったと報告しています。


以上のように、ヒトでも動物でも、ギプス固定などによる不活動状態は『痛み』の発生を招き、不活動期間が長期化すると、その『痛み』は慢性痛へと発展する可能性が高いことが示唆されています。(>_<)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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2012年08月05日

神経系の変化【痛みと不活動A】

前回の記事のように、不活動状態は『痛み』を発生させやすくなりますが、それはなぜなのでしょうか??(?_?)


骨、関節、筋肉などの末梢組織は、身体運動を行わせる実行器官です。一方、皮膚と同様に、これらの組織にも様々な刺激を感じ取る、感覚器としての役割もあります。そのため、末梢組織を不活動状態にするということは、骨、関節、筋肉などの末梢組織が受ける刺激の量が減弱、消失することになります。


生体は、環境に適応していこうとするので、刺激の量が減少するということは、刺激に対する生体の反応、つまり神経系などに変化が生じることが考えられます。


Okamotoらは、ラットを用いて、膝関節内に起炎剤を投与し関節炎を生じさせた関節炎モデルと、膝関節を6週間ギプス固定をした不活動モデルにより、安静時と関節運動時の膝関節からの一次求心性ニューロン(刺激を脳に伝達する神経のうち、最初に刺激を受ける神経)の活動を調査しました。その結果、安静時、関節運動時とも、関節炎モデルと同様に、不活動モデルでも一次求心性ニューロンの活動亢進が認められたことを報告しています。


つまり、末梢組織を不活動状態にするだけでも、炎症が生じている場合と同様に、一次求心性ニューロン感作が生じることが示唆されています。


また、ネコを用いた調査ですが、膝関節を支配する一次求心性ニューロンの75〜90%はAδ線維C線維(ともに一次侵害受容ニューロン)であると報告されており、このことを考慮してOkamotoらの調査結果を考えると、不活動による求心性ニューロンの感作は、『痛み』の発生に関与していると予想できます。


Ushidaらは、ラットの手関節を90°掌屈位(手首を90°曲げた状態)で、前腕から手掌まで3〜4週間ギプス固定した後、前腕から手掌の機能に関わる脊髄後角細胞の、機能面での分布状況を調査したところ、広作動域ニューロン(侵害性、非侵害性の幅広い刺激に興奮する二次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロン【痛みの経路B】参照)、関節運動のみに反応するニューロンの割合が、増加したことを報告しています。


これは、不活動状態が、脊髄後角細胞の可塑的変化を引き起こす可能性を示唆しています。また、広作動域ニューロンの割合が増加するということは、末梢から非侵害的な刺激が入力されただけでも『痛み』として知覚される可能性があります。さらに、不活動状態の後に関節運動を行うとき、しばしば『痛み』が生じますが、これは単に拘縮が発生しているからだけではなく、脊髄後角での関節運動に反応するニューロンが増加していることも、その一因だと考えることができます。


前回紹介した沖田らの実験では、ギプス固定解除後に、ホルマリンテストというものも実施されています。これは、ラットの足底にホルマリンを投与し、その化学刺激に対してラットが行う、舐める、噛むといった『痛み』関連行動の実施時間を5分ごとに計測するものです。ホルマリン投与後5分までを第1相といい、化学的な侵害刺激に対する末梢の『痛み』を意味します。ホルマリン投与後10分以降は第2相といい、局所の炎症と、それに引き続いて起こる脊髄後角細胞の感作に依存した中枢の『痛み』を意味するといわれています。


その結果、4週間固定群では第1相のみ高い値を示し、8週間固定群では第1相だけでなく第2相の35分後まで高い値を示しました。したがって、4週間ギプス固定を行って生じた『痛み』は、神経系の影響というより、末梢組織そのものの変化によるものと推察できます。一方、8週間ギプス固定を行うと、神経系にも変化が生じ、この影響によって慢性痛が発生することが予想できます。


以上のように、不活動状態により発生する『痛み』は、神経系の変化によって引き起こされている可能性が十分にありそうです。φ(.. )メモメモ


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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2012年08月06日

末梢組織の変化【痛みと不活動B】

不活動状態による『痛み』発生のメカニズムについて、神経系の変化以外に、末梢組織の変化も考えられます。


沖田らは、前々回で紹介した実験で用いたラットの、足底部の皮膚の肉眼的、組織学的変化を調査しました。


ギプス固定後の肉眼的変化としては、皮膚の荒れが特徴的でありました。これは実際の患者さんにも、しばしば見られる現象です。ギプス固定後の組織学的変化としては、角質層皮膚の痛み【運動器の痛み@】参照)の乱れが認められました。これは、肉眼的変化として観察された皮膚の荒れを裏づける結果です。


また、ギプス固定後は表皮の菲薄化も認められました。実際に表皮の厚さを計測したところ、ギプス固定期間に応じて表皮の厚さは減少していき、ギプス固定2週間後4週間後は、有意に表皮の厚さが減少していました。


表皮の菲薄化は、自由神経終末が分布する表皮基底層と外界との距離が短くなることとなり、このような状態になると、正常な状態と比べて、外界の刺激を鋭敏に感じやすくなるのではないかと推測できます。実際、前々回紹介した沖田らの実験結果では、ギプス固定2週間後から機械的刺激に対する痛覚閾値の低下が認められており、表皮の厚さが有意に減少する時期と一致しています。


したがって、不活動状態による『痛み』の発生には、表皮の菲薄化が関与している可能性が十分に考えられます。


不活動状態による『痛み』発生のメカニズムに関連する末梢組織の変化は、表皮の菲薄化以外にも存在することが予想されますが、現時点では、このことに関する研究報告はほとんどなく、今後の研究成果が待たれるところであります。


おわり(^^)


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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