私たちが歩くとき、身体の重心は当然ながら進行方向へ移動していきます。
前回、私たちはエネルギーを温存するために重心の移動を最小にしていると紹介しましたが、この進行方向への重心の移動は、それが歩行の目的ですので、それを最小化する必要はありません。
実は歩くとき、重心は進行方向だけでなく、上下左右にも移動しているのです。二足歩行を行う場合、必ずこの重心の移動が生じます(図1〜3)。
図1〜3は、2本の棒をヒトの脚に見立てて、その棒が歩いているときの図です。水色の棒は右脚、オレンジ色の棒は左脚です。
図1は、棒が歩いているところを横から見たものです。青色の棒は片脚立ちになって左右の棒が重なっている状態を表しています。
骨盤の高さを注目して見ると、歩いているときにその高さが上下しているのが分かります。つまり、重心が上下に移動しているのが分かります。
図2は、棒が歩いているところを正面から見たものです。骨盤の中央にある円は重心です。その重心から下に伸びている緑色の矢印は重心線です。
物体が転倒しないためには、重心線が、物体が床に接している範囲内に収まっていなければなりません。この物体が床に接している範囲は、支持基底面といいます。
図4は、重心線と支持基底面と転倒の関係を示したものです。オレンジ色の部分が支持基底面です。
図4-aとbは、重心線が支持基底面の中に収まっているので、転倒しません。
図4-cは、重心線が支持基底面から外れてしまっているため、図4-dのように転倒してしまいます。
しかし、図4-cに図のように支柱(紫色の長方形)を設置すると(図4-c')、支持基底面が広くなります。すると、重心線は支持基底面の中に収まり、転倒しなくなります。
重心線と支持基底面と転倒の関係は、このようになっています。
歩いているときの支持基底面は、片脚立ちになっているときはその足が床に着いている範囲となり、両脚が床に着いているときは両足を含めたその間の範囲です(図5)。
図5は、歩いているときの足跡を上から見た図です。図5-aは片脚立ちになっているとき、図5-bは両脚が床に着いているときのものです。それぞれの図の、左側の水色(右足)とオレンジ色(左足)の部分は足跡で、右側の緑色の部分は支持基底面を表しています。
歩いているときに転倒しないようにするためには、重心線を支持基底面内に収めないといけません。
そのため、片脚立ちになっているときは、支持基底面であるその足が床に着いている範囲に重心線を収めないとならなく、重心をその足の方へ移動させなければなりません。
図3は、歩いているときの、両脚が床に着いているときと、片脚立ちになっているときを、重ねたものです。この図から、重心が左右に移動しているのが分かります。
以上のように、二足歩行を行うとき、重心が上下左右に移動していることが分かります。
しかし私たちは、この上下左右の重心の移動が最小となるよう、絶妙な工夫を自然と行っているのです!その工夫は次になります。
【下への重心移動を最小にする工夫】
a.水平面での骨盤の回旋
b.矢状面での足関節の運動
【上への重心移動を最小にする工夫】
c.矢状面での膝関節の屈曲
d.前額面での骨盤の回旋
【左右への重心移動を最小にする工夫】
e.素早い脚の振り出し
ここで、水平面、矢状面、前額面という言葉が出てきていますが、これらは簡単に言うと次のようなことです。
水平面:身体を上から見た面
矢状面:身体を横から見た面
前額面:身体を前から見た面
次回からは、正しい歩き方に必要なそれぞれの工夫について説明していきます。(^^)/
つづく・・・
〈主な参考文献〉
Donald A Neumann:筋骨格系のキネシオロジー(嶋田智明・他監訳).医歯薬出版,2005.
Jacquelin Perry,Judith M. Burnfield:ペリー 歩行分析 正常歩行と異常歩行 原著第2版
(武田功・他監訳).医歯薬出版,2012.
中村隆一,齋藤宏,長崎浩:基礎運動学 第6版,医歯薬出版.2003.
Jacquelin Perry,Judith M. Burnfield:ペリー 歩行分析 正常歩行と異常歩行 原著第2版
(武田功・他監訳).医歯薬出版,2012.
中村隆一,齋藤宏,長崎浩:基礎運動学 第6版,医歯薬出版.2003.