2012年06月05日

筋肉の痛み【運動器の痛みA】

今回は、筋肉の痛みについてです。まずは、筋肉の構造を整理していきます(図1)。


ヒトの筋肉は3つに分類され、骨格筋心筋平滑筋とよばれています。骨格筋は、腕や脚などを動かしたりするもので、一般的に“筋肉”といわれているものは、この骨格筋のことを指していると思われます。心筋は、心臓を動かしている筋肉です。平滑筋は、腸や血管などを動かしている筋肉です。骨格筋は自分の意思で収縮できますが、心筋平滑筋は自分の意思では収縮できません。『運動器』の筋肉は骨格筋でありますので、ここでの説明は骨格筋についてのものになります。


骨格筋は、筋線維とよばれる細胞と、それを包む筋膜で構成されています。筋線維の中の大部分は、筋原線維とよばれる収縮装置で占められています。骨格筋の収縮は、この筋原線維が収縮することで生じます。


筋膜には主に3種類あり、筋内膜筋周膜筋上膜とよばれています。筋内膜は、個々の筋線維を包むものです。筋線維が数十本〜数百本の束になったものを筋束といいますが、筋周膜はこの筋束を包むものです。筋上膜は、筋束が束になった筋肉全体を包むものです。


骨格筋.jpg

図1:骨格筋の構造



筋肉において、『痛み』を生じさせる侵害受容器が存在する自由神経終末は、筋膜や骨格筋内の血管壁に多く分布しています。骨格筋の侵害受容器のうち、高閾値機械受容器は主にAδ線維に、ポリモーダル受容器は主にC線維に存在していると考えらています。


骨格筋内のAδ線維の多くは、伸張などの機械的刺激に反応することが確認されており、骨格筋をストレッチしたときにしばしば感じる『痛み』は、高閾値機械受容器によって感知されたものと考えられています。


骨格筋内のC線維の多くは、圧迫やつまむといった機械的刺激や熱刺激の他に、ブラジキニン、セロトニン、カリウムイオンといった化学物質に反応することが確認されており、筋損傷時の『痛み』は、主にポリモーダル受容器によって感知されたものと考えられています。また、骨格筋内のC線維は、骨格筋の伸張や収縮によって反応することはほとんどありませんが、その中には虚血中の収縮により強い反応を示すものが存在することが確認されています。


つまり、筋肉の『痛み』は筋膜血管壁で感知され、血の巡りが悪い筋肉は『痛み』が生じやすくなると考えられます。(>_<)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
奈良勲 監,内山靖 編:理学療法学事典,医学書院.2006.

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2012年06月06日

骨と腱の痛み【運動器の痛みB】

今回は、骨と腱の痛みについてです。まずは、骨についてです(図1)。骨は、骨質骨膜骨髄軟骨質から構成されています。骨には血管や神経が存在しています。


骨質は、骨の基質で、緻密骨皮質骨)と海綿骨の2種類があります。緻密骨は骨の表層に存在する、極めて硬い骨です。海綿骨は骨の内側に存在し、網目状の構造物である骨梁を形成しています。


骨膜は、骨の表面を覆い保護している結合組織です。血管や神経に富んでいます。


骨髄は、骨の内部の空洞(骨髄腔)を満たしている軟らかい組織です。


軟骨質は、弾性力に富む組織で、血管や神経は存在しません。関節軟骨などがあります。


骨の構造.jpg

図1:骨の構造(大腿骨(太ももの骨))



骨において、『痛み』を生じさせる侵害受容器は、骨膜に高密度に分布し、骨髄骨質緻密骨海綿骨)にも存在しています。しかし、軟骨には存在していません。


続いて、腱についてです(図2)。腱は、筋肉の両端に存在する強靭な結合組織で、骨に付着しています。筋肉との結合部(筋腱移行部)では、筋細胞と強固に結合しています。骨との付着部では、骨膜の結合組織とよく癒合し、一部は皮質骨と強固に付着しています。


腱は、一般的に円形に近いひも状の構造ですが、膜状に広がったものもあり、これを腱膜といいます。


靱帯の構造.jpg

図2:腱



腱や腱膜には、『痛み』を生じさせる侵害受容器が高密度に分布しています。


つまり、『痛み』は骨でも腱でも感知されます。ただ、軟骨では感知されません。(^_^;)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
橋本辰幸,熊澤孝郎:痛みの病態生理学 第8回 基礎:筋・骨・関節の痛み.理学療法25(7):1095-1101,2008.
中村隆一,齋藤宏,長崎浩:基礎運動学 第6版,医歯薬出版.2003.
奈良勲 監,内山靖 編:理学療法学事典,医学書院.2006.

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2012年06月07日

関節の痛み【運動器の痛みC】

今回は、関節の痛みについてです。まずは、関節の構造を整理していきます。


関節とは、2個またはそれ以上の骨が連結する部分のことです。骨が連結する部分を関節とよんでいるので、関節には、動くものもあれば、動かないものもあります。関節を分類すると、以下のようになります(図1)。


関節の分類.png

図1:関節の分類



動かない、もしくは動いてもごくわずかな関節を、不動関節もしくは不動性結合といいます。一方、よく動く関節を、可動関節もしくは滑膜性関節といいます。一般的に“関節”といえば、滑膜性関節のことを指していると思われます。


不動性結合は、線維性連結軟骨性連結骨性連結に分類されます。


線維性連結は、骨が線維性結合組織というもので連結されているものです。例えば、靱帯だけで連結されているものや、歯と歯茎の連結などです。


軟骨性連結は、骨が軟骨で連結されているものです。軟骨の種類によって、硝子軟骨結合線維軟骨結合に分類されます。線維軟骨結合の例としては、背骨にある脊柱椎間板連結が挙げられます。


骨性連結は、骨が骨で連結されているものです。多くの場合、軟骨性連結から転化し、複数の骨が一つの骨になったものです。例として、骨盤の骨が挙げられます(骨盤の左右片方の骨を寛骨といい、寛骨はもともと腸骨、坐骨、恥骨に分かれています)。


滑膜性関節は、関節包というもので骨と骨が袋状に包まれて連結されているものです。関節包は、内側の滑膜と、外側の線維膜に分けられます。関節包の中(関節腔)は、滑膜から分泌される滑液という液体で満たされています。この滑液は、関節が動くとき、潤滑剤の役目を果たします。滑膜は伸張性を有していますが、線維膜は伸張性に乏しいです。滑膜性関節という名前は、滑膜が存在する関節ということが由来だと思われます。(図2)


関節の構造.jpg

図2:滑膜性関節の基本構造



多くの関節には、靱帯が存在します。靱帯は骨と骨を連結する線維性結合組織です。靱帯は、関節の安定性を高め、運動方向を制御する役割を担っています。靱帯は、栄養や酸素を供給する血管が非常に少ない組織です。そのため、靱帯が断裂すると、その自然治癒は期待できず、再建するには手術が必要となります。


関節包の中にある骨の先端には、関節軟骨が存在します。【運動器の痛みB】でも紹介しましたが、関節軟骨には、血管や神経が存在しません。そのため、関節軟骨への栄養供給は、滑液によりなされます。その栄養供給は、関節運動によってなされます。関節が動くことにより新鮮な滑液関節軟骨に吸収され、同時に古い滑液関節軟骨から排出されます。このことから、関節軟骨は適度な関節運動によってその栄養状態が保たれ、その構造と機能が維持されています。


関節において、『痛み』を生じさせる侵害受容器が存在する自由神経終末は、関節包全域、靱帯血管壁などに存在します。また、関節軟骨には存在しません。


関節の侵害受容器は、次の3つに分類できます。

@侵害的な圧刺激や過度な関節運動に反応する高閾値機械受容器

A強い圧刺激にのみに反応し、関節運動には反応しない受容器

B正常な関節では、どのような機械的刺激にも反応を示さない、非活動性侵害受容器

正常な関節では、@の高閾値機械受容器のみが反応します。一方、関節に炎症が生じると、@〜Bの全ての侵害受容器が反応するようになるといわれています。


つまり、関節の『痛み』は、関節包靱帯血管壁などで感知され、関節軟骨では感知されません。また、関節に炎症が生じると、正常では反応しない侵害受容器が反応し、『痛み』が増強することになると考えられます。(>_<)


おわり(^^)


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
吉雄雅春 編:標準理学療法学 運動療法学 総論 第2版,医学書院.2006.
奈良勲 監,内山靖 編:理学療法学事典,医学書院.2006.

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2012年06月24日

はじめに【脳の中の痛み@】

中枢伝達経路(二次、三次侵害受容ニューロン)【痛みの経路C】で説明したように、痛み刺激は、最終的に大脳に伝わります。Aδ線維を伝わってくる一次痛は、外側系を通り大脳の体性感覚野に、C線維を伝わってくる二次痛は、内側系を通り大脳の島皮質前帯状回扁桃体海馬前頭前野に伝わります。このように、大脳に伝わった痛み刺激は、どのようにして『痛み』として感じられるのでしょうか?


ゲートコントロールセオリー『gate control theory』と『広汎性侵害抑制調節』【痛みの抑制@】参照)を提唱したMelzackは、幻肢の脳内機構からヒントを得て、『ニューロマトリックス理論』というものを提唱しました(『マトリックス』は、「生み出すもの」という意味)。これは、慢性痛病態による分類【痛みの分類@】参照)が生じている者は、脳の中の機能に変化をきたしているという説です。Melzackは、『痛み』を生み出すものとして、知覚情動認知中枢伝達経路(二次、三次侵害受容ニューロン)【痛みの経路C】参照)の3つの側面に分類しています。


幻肢とは、腕や脚が切断されているにもかかわらず、それがまだ実際に存在しているように感じる現象のことです。これは、脳の中にある腕や脚を感じる領域が、それらが切断されても残っているために生じると考えられています。


一方、慢性痛においても、身体に『痛み』に関連する所見がないにもかかわらず、『痛み』を感じていることから、『痛み』は、脳内における神経現象により作り出されていると考えられ始めてきました。


そして、ここ20年の脳の活動を調べる技術(脳機能イメージング法)の開発、発展に伴い、ヒトの思考や行動時の脳活動を計測することが可能になり、身体の『痛み』や、心の『痛み』が生じる際の脳活動を記録することも可能になりました。そして、『痛み』に関連する脳の機能が分かり始めてきました。


『痛み』が生じる際に、脳の中のどの領域が活動するかが分かり、そして、その領域が活動する条件、活動しない条件が分かれば、慢性痛への対処法も明らかになってくると思われます。


では次回から、痛み刺激がどのようにして『痛み』として感じられるか、脳の中の『痛み』を感じる領域がどのような条件で活動するかなどを、脳機能イメージング法による研究成果をもとにみていきましょう。(^^)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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2012年06月28日

急性痛の知覚【脳の中の痛みA】

今回は、急性痛における、『痛み』の知覚についてです。これは、一次痛一次侵害受容ニューロン【痛みの経路A】参照)によってもたらされます。


一次痛は、大脳の体性感覚野に伝わりますが、より正確に説明すると、痛み刺激を受けたところと反対側の大脳の一次体性感覚野に伝わります(例えば、刺激を左手で受けたら、右側の大脳の一次体性感覚野に伝わる)。その後、両側の二次体性感覚野に伝わります。この経路は、『痛み』の知覚経路として考えられています。


一次体性感覚野は、伝わってきた刺激が、どこで受けた刺激なのか判別します。一次体性感覚野の特徴としては、痛み刺激の強度に比例して活動が増加することが挙げられます。


この一次体性感覚野は、注意機能(刺激に注意を払うかどうか)の影響を大いに受けます。つまり、刺激に対して注意を払わなければ、感覚受容器で受けた刺激が知覚されないこともあったり、逆に注意を払えば、その知覚が増強したりすることもありえます。また、自ら触ることによってその物が何であるかを識別することにも、関与しています。物体と接触する場面を想像しただけで『痛み』が生じることがありますが、これはこうした一次体性感覚野の機能の影響が大きいと考えられています。


二次体性感覚野は、刺激の性質を識別するところと考えられています。これは、二次体性感覚野に病変がある患者では、痛み刺激を『痛み』の刺激だと判別できないことから、このように考えられています。


また、二次体性感覚野の活動は、予期注意学習記憶といった機能や認知的プロセスに、大いに影響を受けることが明らかになっています。このように、二次体性感覚野は、『痛み』の感受性の変化に関連する領域と考えられています。


以上のように、『痛み』の知覚は、主に一次痛が、一次体性感覚野二次体性感覚野に伝わることによって生じます。一次体性感覚野は、刺激を受けた場所を判別し、痛み刺激の強度に比例して活動が増加し、注意機能の影響を大きく受けます。二次体性感覚野は、刺激の性質を識別し、予期注意学習記憶といった機能や認知的プロセスに、大きく影響を受けます。


そして、一次体性感覚二次体性感覚野は、侵害刺激に応答する急性痛に主に関与し、慢性痛にはあまり関与しないと考えられています。


つづく・・・


〈主な参考文献〉
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